手の平のニライカナイ 「あんたらいつの間にそんなことになってんの」 女顔負けのさらさらヘアを後ろで一つに結んで、平古場くんは私たちに尋ねた。 「一週間前から」 いつからだっけ、と逡巡する私に代わって、木手くんが先に答えてくれた。マジで!?と驚く平古場くんをよそに、それよりも、そうかもう一週間たったのか、と、時間の経過の早さの方に私は驚いていた。 「だから手出し無用ですよ、平古場くん」 「いやしねーよ」 しかしよく分かったな平古場くん。今私と木手くん、何してたっけ。今日の部活終わるの何時?って聞いて、18時過ぎかな、って言われて、あーそれなら私待ってるね、って…言ったからか。そりゃ分かるか。 「…!」 「はいっ」 突然呼ばれて何かと思えば、じゃあ俺ら部活行くから、という平古場くんの去り際だった。木手くんはもうすでに去っていた。彼氏は木手くんなのに。まあ私がぼんやりしてたのが悪い。せめてもと思って、教室を出ていく平古場くんにばいばいと手を振った。 --- 「…」 「……」 「」 「!は、はい」 デジャヴ。また何か、と思ったら、そこにいたのは平古場くんでなく木手くんだった。忘れ物?と尋ねようとして、さっきよりもだいぶ日が落ちていることに気づいた。 「…あれ」 「疲れてるんですか?爆睡してましたよ」 「……すいません」 「別に。俺は迷惑してないけど」 冷たく突き放しているように聞こえるけど、これが木手くんの優しさであることを私は知ってる。他人に、他人のペースで過ごすことを許すという優しさ。 「…木手くん」 「はい」 「お腹すいた」 「……ゴー「ヤはいらないよ。アイス食べたい」 「…夕飯前なのに?」 「アイスは別腹だからいいの」 本当はちょっと寄り道したくなっただけ。だけど、そういうことにする。木手くんはふっと笑って、何も言わずに私の頭をぽんぽんと叩いた。 「……そういうのは、ちょっと」 「なんですか?」 「困ります」 「ああすみません、髪のセットが乱れますからね」 「……」 じゃなくて、心臓が変な感じになるから、なんだけど。そう言っても理解してもらえないだろうから、言わないけど。 その代わり、制服の袖をつかんで引っ張った。背伸びをして彼の頬に顔を寄せる。ぬるい風が、私たちを包むようにさらりとカーテンを揺らした。 「……」 「行こっか、アイス」 「…あの、」 「うん」 「そういうのは、俺も困ります」 分かっていたけど、何の話ー?と知らないふりをした。実は私の心臓も、慣れないことをしてドキドキしてたんだけど、気づかないふりをした。 だってわざと困らせてるなんて、言えない。 何味のアイスがいいかなあなんて非現実的なことを考えながら、それでも近づく影に、黙って目を閉じた。 (16.05.08) |